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偏在化するテロリズム!イラクのモスルが解放されようとISISの細胞は滅びない

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こんにちは、DACです。

今回はISISに関するお話を少しします。正確には最早ISISなどという名前すら意味をなさないだろう悪意の拡散についてです。

これは誰かのための共有というより、小生の頭の中の整理用です。もしも何かの役に立つなら使ってください程度なのであまり読み手のことは考えていません。

イラク北部の都市モスルの完全制圧が間近

ISISは国を自称し、この世の地獄を具現化してきた

ISISが猛威を振るっていた本拠というとやはり中東となるでしょう。その中でもイラク北部の都市モスルは、ISISにとって特別な場所です。何故なら、2014年6月に最高指導者バグダディがモスル旧市街の「ヌーリ・モスク」で国家樹立を宣言したからです。ISISは「イスラム国」と表現されるのは、ISISが自身を国家組織体であると自称しているからです。

勿論、そんな国は存在しません。少なくとも国家組織だと公式に認められてはいません。とはいえ、ISISが自称し実効支配した地域では彼らの定めた規律のもとに生きることを全ての人に一律強制されます。そこには楽器で音楽を奏で聴く自由は存在しません。そこには、煙草も酒も嗜む自由は存在しません。

敵対する全ての文化は焼き尽くし、それを求める人は堕落したとして焼殺します。従属しても悲惨です。異教徒であった女性はすべからく性奴隷としての従事すべくとされますし、それ以外は労働力か人間の壁として砲撃や空爆用に惜しみなく消費されます。或いは、必要に応じて首を落とすなり残虐且つ恥辱的な殺害手段をもって対外的示威行動、支配範囲での従属性強化の道具としても活用されてきました。およそ人として扱われる可能性はありません。異教徒ですから。

アバディ首相は「偽りの国家は終わった」との声明を出した

6/29イラク首相アバディ氏は「偽りの国家は終わった」との声明を出しました。イラク軍および協力する米軍、クルド族の働きにより追い詰められたISISが「ヌーリ・モスク」を爆破し29日早朝にイラク軍がモスクに突入し制圧したことを受けての発言です。アバディ首相は「最後の一人までISIS戦闘員を殺害するか、拘束する」とも発言し、イラク国内において徹底的なISISの掃討を誓いました。

一時期モスル市を含むチグリス川東部一帯の領域であったISISのイラク内支配領域は、現状はモスル旧市街内の2平方キロメートル未満となりました。往時2000人いた構成員も残るところ300人前後とされます。秒読みとは言わずともそう遠くない未来にモスル市内は軍に制圧され、5万人いると推定されるモスル一般住民及びモスル市は解放されるでしょう。

時同じくしてシリアのISIS拠点ラッカも包囲されており、中東におけるISISの主要拠点はいずれも陥落はほど近いと言えます。

掃討戦後の問題

破壊された生活環境の復帰困難さ

ISISがやってきたことは文化の破壊であり、生活環境の破壊です。衣食住を支える全てのインフラが壊されています。

例えば、食料を得るための小売りの場所も破壊されているし、そこに物資を運ぶための物流手段、物流を乗せるための道路も物理的に寸断されています。一朝一夕に修復することは出来ませんが、生活者はその修復を待たず食料を必要とします。欠乏する物資を配給で賄うことなど出来る訳も無く、高騰する価格に住民の不満は新たに破壊の芽を生む可能性が高いでしょう。一旦破壊された環境は仮にISISが完全に掃討されたとしても負の連鎖を長く生み続けます。

空爆・砲撃による誤爆被害の報復

ISISは白兵戦力が非常に強く、ゲリラ戦に長けています。そのため、包囲戦を行う軍は被害を最小化すべく航空機による空爆、長距離からの砲撃、無人機(戦闘ドローン等)による攻撃に依存します。精度が上がっているとはいえ、人間の盾をフル活用するISISの戦術に対してそれらは大雑把で誤爆被害を余儀なくしてきました。

イラクにおいては、更に拙い背景があります。モスル市を中心としたISISの実効支配地域はイスラム教スンニ派が多く、シーア派が多くを占めるイラク現政府には元々悪感情があります。まして、ISIS掃討のために被害も辞さずと判断したことは怨恨感情を持たせるに余りあるでしょう。ISISがいなくなり当面の危機が無くなった後、生活困難など生きる上での理不尽、戦時の被害などもろもろの恨みがISISではなく中央政府に向けられます、報復としてのテロは必然ですし、そこにはまたISISの細胞となりうる要件を含んでいます。

そもそもISISが介在していまいとスンニ派とシーア派の対立は、対立などという言葉で表現できる生易しいものではなく血で血を洗う怨嗟の歴史の上にたつものです。孤立化しつつあるカタールの事情ともこれは同期します。

地域性・中央集権ではなくアメーバ化する悪意

ISIS内の指揮機能の分散化

そもそもISISは最高指導者バグダディが何もかもを指示するような組織ではありません。

ご存知のようにフランスやイギリスで繰り返され、恐らくは今後も引き起こされるであろうISIS由来のテロ事件はISISが直接手を下したものではありません。後付けでISISが声明を出しているため、あたかもテロの準備から実行までの全てをISISが指図したように見られそうですが、そうではありません。ISISの思想に影響を受け、中東に訪れ本体で薫陶を受けたISISの細胞が出戻って独自の判断で実行しているのが実態です。テロに精通した専門家をISISが現場指導のために派遣している場合もあるでしょうが、主体は細胞側にあります。

それに加え、バグダディは指揮機能を12人の幹部による軍事評議会に権限移譲しています。小生は幹部の動向を預かり知りませんが、恐らくは個々に別の指向性を持ちそれぞれに別の場所で別の方法をもってISISのあるべきを具現化しようとするでしょう。当然それぞれはマークされていますし抹殺指令対象でしょうが、バグダディ一人を潰せばどうにかなる状況では既にありません。

また、同様の流れで12人が12人だけで済む訳もなく、更なる分散、更なる拡散は進んでいくのは必然的と言えます。

地域性も意味が無くなっている

「イスラム国と言えば中東の話である。自分には関係ない。」そんな認識は既に過去のものとなって久しいのです。なるほど、モスルやラッカの制圧は大きな一つの成果となることでしょう。ISISにとっての聖地であり象徴を潰すのですから。

しかし、最早そんなものはISIS、ひいては世界に拡散する悪意にとっては最早些事に過ぎません。むしろ屈辱によって奮い立たされるカンフル剤として悪意を助長するものとして機能するかもしれません。目下、悪意の拡散、新拠点の開拓の動きで目立つところとしてフィリピン南部ミンダナオ島での武力紛争が挙げられると思います。

フィリピン南部ミンダナオ島マウティ市紛争

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イスラム過激派がフィリピン南部ミンダナオ島マウティ市を実効支配し、周辺を恐怖の底に陥れてから既に一ヶ月強を数えます。武装勢力、一般市民、フィリピン軍を併せた総死亡者数は既に400名を超えています。

元々フィリピンには地場の過激な反政府組織が複数存在し、政情的に不安定な状況が続いてはいました。しかし、この紛争は明らかにISISの影響…というよりもISISの東南アジア拠点確立の一環の動きであり、それとは一線を画したものです。

元々この紛争は「アブサヤフ」及び「マウテグループ」にも想定外のものでした。5/26の紛争の始まりはマウティ市に潜伏していた「アブサヤフ」のイスニロン・ハピロン容疑者を確保しようとした政府当局に対する抗戦が切っ掛けです。いずれ武装蜂起し拠点化するにしても、周到な地固めをした上での筈でした。

予定を相当前倒した結果元々500人はいた戦闘員のうち300人は死亡しました。ISIS伝統の人間の盾戦術が有効に機能しているものの圧倒的に劣勢です。この現状においてフィリピンでの拠点化計画は少なくとも当面失敗したと言って良いでしょう。インドネシア、マレーシアといったフィリピンと実質競合していた周辺国家が曲がりなりにも連携する動きも見せています。

ただ、失敗と言ってもあくまで今進んでいる紛争の状況として拠点化が結びつかないというだけのことで、東南アジアでの拠点構築は別途進行することは不可避的に確実です。

他にも細胞は拡散している

有名どころとしては、ナイジェリアの「ボコ・ハラム」、ソマリアの「アル・シャハブ」、インドネシアの「ファクシ」「ジェマ・イスラミア」、エジプトの「イスラム国シナイ州」こと「エルサレムの支援者」、リビアの「イスラム国キレナイカ州」こと「イスラーム青年シューラ評議会」、ヨルダン「タウヒードの息子たち」、レバノン「自由スンニのバールベック大隊」などが挙げられます。

しかし、これらはあくまで名の知れた一定以上の規模の活動集団というだけで、名の知れぬ中小規模の団体や個人となるとどれだけ分散化、拡散化されているかは知れたものではありません。

小規模であるから脅威ではないと言う訳ではないのは、先に挙げたフランス、イギリス、或いはその他の地域でのテロで実証済みです。ある程度以上の規模となると、フィリピンのようにテロの枠ではなく紛争となり、ISISが自称するところの国家的支配集団として機能し始めるという差異はあります。しかし、いずれにせよ危険極まりない存在ということでは論を待ちません。

終わりに

日本においては、現在のところISISによる顕在的なテロや国家的支配の動きは見えていません。ただ、それを以て日本はISIS及び世界に拡散する悪意から無縁のままでいられると考えるのはあまりに無根拠な安易であり楽観的思考と言って良いでしょう。単に一般国民が認知できるほど顕在化していないだけで、現場的には水際対応或いは潰し込みを行っていることは想像に難くありません。

東京オリンピックでの安全確保を名目にして多くの反対を押し切り反則的ともいえる独善的な手法をもって成立させた共謀罪関連法もここで機能するのであれば機能してほしいです。残念ながら、安倍政権の閣僚の言動からはそういった大局観よりも国家統制目的のにおいの方が濃厚な訳ですが、せめて国民を守る動きだけは忘れないで欲しいと切に願います。

国内では未だフィリピンミンダナオ報道が国民向けに周知を進める観点では消極的過ぎます。当の国民自体海外情勢など意識の外にあり国内のあれやこれや、或いは生活周辺にしか興味を持たない状況で事実上国民総引きこもりです。平和を謳歌できた昭和後半ならともかく、今の状況は個人的に非常に恐ろしく感じています。無力な一個人として脅威に応じて出来ることは何もありませんが、せめて状況だけは今後も無知な自分なりに見ていきたいと思っています。

身を守るための知識は自分でつけましょう

外務省がかなりカジュアルに安全確保のための知識共有を進めています。個人が出来ることは限られていますが、何も知らない何もしないとは雲泥の差が出ることです。海外に出向く機会がある人は勿論、国内のみで活動する人も是非こういった共有情報を活用されるようにしてください。
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