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山本公一さんと小池百合子さん、あなた方のお仕事って一体なんでしたっけ?

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こんにちは!DACです。

今日は、クールビスの温度設定について触れていきます。(尚、本エントリは「クールビズの欺瞞を裏付けるため室内温湿度と不快指数を実計測してみた - ぐだぐだわーくす」と併せ読むことを強くお勧めします)

今回の元ネタ

昨日のニュースで、導入時に環境省の担当課長だった盛山正仁法務副大臣が「クールビズは科学的知見をもって28度に決めたのではない。何となく28度という目安でスタートして、それが独り歩きしたのが正直なところだ」と発言したことが物議を醸しました。そうというのもクールビズは2005年に導入して以来、各企業を挙げての運動として定着している国策です。それが実は何となく…というのを当時の当事者が口にしてしまった訳です。

状況を重く見てか、一日経って山本環境相は「科学的根拠がある」、導入時に環境大臣だった小池百合子都知事も「科学的、法的根拠ある」と反論し、事態の鎮静化に走っています。

クールビズとは

環境省が管轄する国策で「温室効果ガス削減のために、冷房時の室温を28℃に。」というスローガンの元5月1日から9月30日の期間の室温を28度とするよう勧告している。単に28度とするだけでなく体感温度を下げるため、ノーネクタイ、ブラインドや断熱シート、冷感グッズ、うちわなどエネルギー資源を消費せず涼しく快適に過ごす方法を提示している。

では、法的科学的根拠とは何か?

環境省サイトでは

環境省サイトでは以下のように根拠を説明している。


冷房時の室温28℃とは、「建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令」及び「労働安全衛生法の事務所衛生基準規則」において定められた範囲(17℃以上28℃以下)によるものです。
各家庭やオフィスなどのすべての事業所で、夏の冷房の設定温度を26.2℃から28℃に1.8℃上げると想定すると、大きな削減効果が期待できます。

建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令」は昭和45年の施行の法律です。第二条(建築物環境衛生管理基準)の1のイに以下の記述があります。


気調和設備(空気を浄化し、その温度、湿度及び流量を調節して供給(排出を含む。以下この号において同じ。)をすることができる設備をいう。ニにおいて同じ。)を設けている場合は、厚生労働省令で定めるところにより、居室における次の表の各号の上欄に掲げる事項がおおむね当該各号の下欄に掲げる基準に適合するように空気を浄化し、その温度、湿度又は流量を調節して供給をすること。(中略)
四.温度:一 十七度以上二十八度以下、二 居室における温度を外気の温度より低くする場合は、その差を著しくしないこと。

労働安全衛生法の事務所衛生基準規則」は昭和47年施行の法律の中に規則項目です。第五条の3に以下の記述があります。


事業者は、空気調和設備を設けている場合は、室の気温が十七度以上二十八度以下及び相対湿度が四十パーセント以上七十パーセント以下になるように努めなければならない。

しかし、これだけだと法的根拠があることは分かりますが、科学的根拠は分かりませんね。粉塵や一酸化炭素、二酸化炭素含有量の定義などが並べて規定されているところを見ると工場や現場での劣悪な労働環境を一定以上の安全、衛生性の確保を目指そうとしていたことは分かります。

科学的根拠を追求した記事

実は今回の騒ぎとは全く関係なく、昨年夏に以下の記事が公開されています。
dot.asahi.com
ここで先の法律での根拠として以下が詳らかになっています。


ではなぜそう定められたのか。建築環境学を専門とする早稲田大学理工学術院の田辺新一教授に聞いた。田辺教授によれば、この法律のもとになった研究があるという。66年の厚生科学研究「ビルディングの環境衛生基準に関する研究」(小林陽太郎)だ。この研究の中で根拠とされ引用された研究はさらに古く、戦前から60年前後にかけてのもの。ここに、許容限度の上限として28度という数字が登場する。ヒートアイランドなどという言葉も一般的ではなく、オフィスにはまだパソコンもない時代だ。

更にこの研究報告書の中には「この範囲内におさめなければ、健康的かつ衛生的な状態だとは言えない、という法律としての上限です。決して推奨する値ではない」と書いてあるそうである。

山本環境相や小池百合子元環境相の主張する「科学的根拠」は確かにあるが

なるほど、山本環境相や小池百合子元環境相の「科学的根拠」は確かにある。そこには嘘ではない。

しかし、それはあくまで健康的で衛生的であるための条件に過ぎないのです。結果的には嘘です。現状維持をし国策を国策たらしめる権威付け、自分たちの威信を守るため、それ以外の何の意味もない薄っぺらな嘘です。

環境省のクールビズサイトの嘘

クールビズのサイトにはどう書いてあったか再度見直してみましょう。オフィス篇|COOLBIZ|COOL CHOICE 未来のために、いま選ぼう。には医師に取材して以下のようにクールビズのメリットをアピールしています。


クールビズで環境省が推奨する室内温度は28℃。でも「まだ暑い」と感じるなら、扇風機などを効果的に使ってみましょう。肌で風を感じることで体感温度がグッと下がります。ビジネスには身だしなみが大切ですが、室温28℃なら美容面にもメリットが。冷えすぎによる血行不良が改善されて、顔色は良くなりますし、実は抜け毛予防にも効果的なのです。クールビズは、夏バテ・夏風邪を防いで健康を促進するだけではなく、仕事のパフォーマンス向上にも繋がりそうですね。(取材協力:馬渕メディカルクリニック馬渕知子院長)

28度では生産効率は下がり仕事のパフォーマンスは落ちる

先の記事に戻りましょう。


グラフは、田辺教授らが04年に行ったコールセンターでの調査の結果だ。約100人のオペレーターが扱った年間1万3169人分のコールデータを対象に、室内環境と生産性の関係を分析した。
結果からは、室温が上がると平均応答数が低下する、つまり生産性が下がることがわかった。25度から28度に上がると6%も生産性が低下した。落ちた生産性を残業でカバーしようとすれば、そのぶん電力消費がかさむ上に、エネルギーコストよりもずっと高くつく人件費のコストが上乗せされる
いかにも効果がありそうなことを「繋がりそう」と書いているが、現実は全くの逆の実証結果があるだけです。

落ちた分の生産性をカバーするために、日本企業伝統の力技である残業を行えば、それだけ無駄な電力を使う訳です。そんなことをするくらいなら26度に設定して効率よく仕事をして残業無しにすればよっぽど良い結果となるのです。

クールビズという国策を守らせて、政府の顔を立てるために業務効率を落とし、限りあるエネルギーをより多く消費するのはどういう愚行なのでしょう?

科学的根拠という裏付けを用意して無駄を強いる。結果、海外に比べて著しく生産性の低い国という汚名を更に多く着せられるとか本当に馬鹿馬鹿しいですね。*1

日本の空調機器は26度で最適化されている


田辺教授によれば、日本の空調システムの多くは、26度が設計値だという。近代空調の発明者であるアメリカ人のウィリス・キャリアが、1940年に出版した『Modern Air Conditioning
, Heating and Ventilating』という本がもとになっている。この本にある「外の気温が32度のときには室内温度は26度が望ましい」という記述を受けて、日本に空調が導入された50年代から現在までずっと、26度で設計されているのだ。
Modern Air Conditioning, Heating and Ventilation

Modern Air Conditioning, Heating and Ventilation

設計値が26度であるのにもかかわらず、ターゲットを28度にずらして運用すれば、必然的に不具合が生じることが多くなる

先の話が人が本来発揮すべき力を発揮できなくする枷であったのと全く同じです。機械にも枷をつけて、本来の機能を発揮させない訳です。せっかく快適に過ごすために設計されたものなのにわざわざ意味を無くしておいて、暑いと感じるのは過ごし方が悪いのだと暗に責任転嫁をする訳です。

28度という温度を明確に決めってしまったから、誰もがそれに縛られてしまう。決めたという決定を下したことに価値を見出すために、結果が全て疎かになってしまう。その現実を認めたくないから現実も捻じ曲げて見ないように見せないようにしてしまう。単に不誠実を通り越して、呪いの領域に足を踏み込んでいます。誰一人幸せにならない呪いです。

海外における推奨温度

米国労働省の労働安全衛生局(Occupational Safety and Health Administration)が、OSHA Technical Manualにおいて、オフィスにおける温湿度のガイドラインでは以下のように記載がある。


湿度の制御範囲は 20%~60%、温度の制御範囲は 20°C~24.4°C(68 °F~76 °F)を勧告している。ただし、この数値は規制値ではない。

カナダでは、労働安全衛生センター(Canadian Centre for Occupational Health and Safety: CCOHS)が労働環境における温熱快適性のガイドラインとして以下を挙げている。


(1)一般的には 21~23°C (69~73°F)の範囲内に維持することが推奨される。夏季に外気温度がこの範囲よりも高い時は、屋外と外気の間の温度差を最小限にするために、少しばかり高い温度に空調することが望ましい。

(2) 相対湿度が約 50%に維持されると、オフィス内の労働者は呼吸器系への影響をほとんど受けず一般に快適である。しかし、湿度がさらに高くなると空気がこもり、息苦しさを感じる。そしてさらに重要なことは、特に気密性の高い建物内では細菌やかびの成長を助長することである。

いずれにせよ28度まで高くはありません。その他の国も比較した場合、中国での基準最高値が28度、イギリスの幅の緩い最高温度31度、カナダの場合「オフィスにおける温湿度のガイドライン」とは別に相対湿度30%前提での28度というのがCSA Z412-00「オフィス人間工学」に示されていますが、これを見て「ほら、28度以上もあるじゃないか」と言い出すなら流石に指摘するのも情けなくなります。
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根拠としている日本の法律でも28度は既定している範囲の上限値なのです。中間値ならまだしも上限値を推奨とか訳が分かりません。日本と海外は違うとおっしゃるかもしれないが、日本ならではの数値の根拠を挙げてからでなければそれは苦し紛れの出まかせでしかありません。

終わりに

国策としてのクールビズを継続することで、省エネルギーを勧め高いパフォーマンスをあげる。二酸化炭素の発生を抑え、地球温暖化を食い止める。確かにその志は美しいし正しいことでしょう。

しかし、その実態はどうなのでしょうか?少なくとも科学的根拠については再考が必要だと思います。

反論の根拠とした空調機の設定の根拠も確かに古いものです。そうとはいえ、反証があり且つ、元々の28度の科学的根拠としていたものも正しく解釈されていません。

その前提を踏まえれば、盛山副大臣の「クールビズは科学的知見をもって28度に決めたのではない。何となく28度という目安でスタートして、それが独り歩きしたのが正直なところだ」という見解は正鵠を射るものだったと言えます。

山本さん、小池さんに申し上げたい。政府として、政治家としてのメンツで根拠薄弱な国策を推進するよりも、国として社会としてより良くなることを優先させるのがあなた達のお仕事ではありませんでしたか?

関連エントリ

本エントリを前編、以下を後編と位置付けています。後編は特に自信を持って提供しております。是非ご一読あれ。
www.gudaguda.work

*1:着せられているというか着せているのは元経産省所管の公益財団法人日本生産性本部なのでグルだったら酷いマッチポンプですね